風の種 風の種というのを知っていますか。 風の種は直径数ミリほどの楕円体で、無色透明、人の目には見えません。ふわふわと空気中を漂い、やがて立派な風へと成長していきます。 普通の植物の種が栄養のある土と水、そして太陽の光を必要とするように、風の種にも必要なものがあります。適度な水気を含んだ空気、そして太陽の光と月の光です。それさえあれば、風の種には十分なのです。 良質の空気と光をうけた風の種は、やがて発芽します。大抵、大きく育った他の風の助けを受けて発芽しますが、ごくまれに、自力で発芽するものもあり、静かな無風状態だった場所に突如風が吹くのは、これのせいなのです。自力で発芽した風の種のエネルギーはすごく、春一番にまで成長するものもいます。 他の風の助けを得て発芽した風の種は、まずは微風となって、自分が芽づいた周辺を駆け巡ります。そこで体力を養い、やがてそよ風に成長する頃には、それぞれ世界へと散っていきます。 あるものは東に行き穏やかな風に、あるものは西へ行き乾いた風に、あるものは南へ行き暖かい風に、あるものは北へ行き冷たい風に、それぞれ変わっていきます。季節によって場所を移る渡り風などもいたりして、風たちは個性的に育っていくのです。高いビル街を好んで突っ走る、暴走族のような風もいます。 また、時々、同じ風の種を見つけては、強く吹きつけてやり、その発芽を促します。 やがて成長しきった風は力が弱まっていき、元のそよ風程度の風になります。そうなると、それまで真っ直ぐに吹き競っていた風たちは、くるくると回り始めます。つむじ風です。時折起こる台風は、つむじ風たちが手を取り合って仲良くダンスを踊っているのです。生涯最後のダンスです。 つむじ風は周り続けるその中で、新たな風の種を生み出します。そしてその回転にのせて、各地へ新しい種を飛ばすのです。その後種を生んだ風はなくなり、新たな風が世界に芽吹くのです。 ←鳥の話 雪→
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