地底人の話


ナオキ(以下N):みなさん今日は。『地底の底から今日は』の時間がきました。本日は特別ゲストとして、つい先日、地底ナンバー1の実力者になられた、シゲル氏をお招きしています。

シゲル(以下S):どうも。

N:シゲル氏は、多くの地底人が知っている通り、現在ナンバー2の実力者アイリ女史との権力争いにお勝ちになられたのですよね。

S:うむ。いかにも。

N:どうでした、アイリ女史の実力は?

S:うむ。さすが、女性でありながら、地底ナンバー2の地位を手に入れた人。私も少々てこずった。

N:そうですか。……あの、地底住民の間で「シゲル氏の最大の強敵はマサオ氏だ」という噂が流れていたのですが……。その噂について、何か。

S:うむ。確かにマサオ氏は、我が生涯最大のライバルだ。

N:ほほう。つまりあの噂はやはり事実なのですね?ですがマサオ氏は、今回の権力争いには参加しておりませんでしたね。早々に身を引く形でナンバー3の座に収まっておりましたが。それについては?

S:うむ。それはやはり、後遺症かと。

N:後遺症……といいますと?

S:うむ。今を去ること数年前、私とマサオ氏は、この地底世界で1、2を争う実力者になった。

N:はぁ。

S:そこで私達は、どちらが地底ナンバー1にふさわしいかを賭けて、喧嘩を始めたのだ。

N:ふむふむ。

S:最初は単なる口喧嘩程度だったのだが……やはりナンバー1を賭けた戦い。そのうち、どちらからともなく手や足が出てな。

N:ほう。

S:時が経つにつれ、戦火は激しくなる一方。その死闘は、ゆうに一週間にわたった。

N:なんと!

S:うむ。あの時のことを思うと、いまでも血が騒ぐ。

N:そして結果は……?

S:うむ。マサオ氏もねばったのだがな……。一週間目、マサオ氏が意を決してクロスカウンターを狙ってきた。しかし、リーチの差で、結局は私の勝ちに終わった。

N:ということは、その頃から、シゲル氏の方が一枚上手だったわけですね?

S:うむ。だが、その喧嘩で、ちょっと困ったことが起きた。

N:困ったことですか?

S:うむ。地底人なら誰でも知っている通り、地底と地上を結ぶ通路で誰かが転ぶと、地上では地震が起こる。

N:ええ、そうですね。それが?

S:うむ。地震は、転び具合によってその規模を変える。つまづいた程度なら、ほとんどの人がゆれを感じん。擦傷ができるような転び方ならば、つり下げている電灯がわずかに揺れるくらい。尻餅をつけば、棚の食器が音をたてる。

N:まぁ、常識ですよね。

S:うむ。もちろん我々も知っていた。しかし……。

N:しかし?

S:喧嘩に夢中になっていた私とマサオ氏は、無意識のうちに、地底・地上通路付近まで来てしまっていたのだ。

N:何ですとぉ!?

S:そのことに私達が気付いたのは、勝敗が決した後だった。地上人のニュースで知ったことだが、あの日の我々の喧嘩は大震災になっており、多くの命が地上を去ったという。

N:…………。

S:私とマサオ氏は当然責任を感じた。二人で地底警察署まで行き、署の丸池で頭を冷やしたものだよ。

N:それでマサオ氏は……。

S:うむ。おそらくそれが原因で、出所後も、もう権力には手を出さないようにしたのであろう。

N:なるほど。

S:だが、私はそうはしなかった。

N:何故ですか?

S:うむ。私には夢がある。それを叶えるためには、どうしても力が欲しかった。

N:その夢とは?

S:うむ。私の夢は、地上の人々に、我々地底人の不満を聞いてもらうことだ。

N:ええ!? といいますと、例えば、ゴミをポイ捨てするなとか、地盤沈下起こすようなことするんじゃねぇ、とかでしょうか……?

S:うむ。そういったことも含む。

N:そ、それは素晴らしいことですね。まさに前代未聞の考えです。

S:うむ。私もそう思う。

N:で、では、地底ナンバー1になった今、早速その夢を実行するのですか?

S:うむ。地上人の地面は我々地底人の天井。ポイ捨てなんぞで汚されては困るし、地盤沈下で下がってくるのもごめんだ。まして、地下と称して地中にコンクリートの塊を埋め込むとは言語道断。1日も早く実行に移す。

N:み、みなさん、お聞きになりましたか? ついに、私達地底人の不満を地上人の耳に入れるときがきたのです! ……ところで、その方法は?

S:うむ。もう考えてある。

N:おお、そ、それは、今教えていただけるのでしょうか?

S:うむ。……ダイブトラベルだ。

N:……はい?

S:ダイブトラベル。

N:えっと……それはどのような意味で?

S:ダイブ……つまり、もぐるということだ。地上人に、我々が今開発中のダイブマシンをプレゼントする。そのマシンに乗れば、地上人も、はるか深くにある地底まで来ることができる。

N:むむ……なるほど。地上人に地底まで来てもらって、私達の常日頃からの不満を聞いてもらうわけですね?

S:うむ。ダイブマシンは、あと三日程で完成する。

N:三日!? もう、すぐじゃないですか。

S:うむ。その通りだ。

N:あぁ……! 三日後、ついにシゲル氏の夢……そして私達の夢が、現実のものとなるのですね!

S:うむ。この話には、かのマサオ氏も協力してくれている。

N:素敵ですね、ライバル同士が協力しあうなんて。

S:うむ。

N:最近では、マサオ氏とアイリ女史が一緒になって、ロボットどこでもアイリ≠造ったという話を聞きましたが。現在大量生産され、売り切れした店が続出のようです。マサオ氏は、権力争いからは身を引いたものの、なかなか活動的ですね。

S:うむ。

N:まぁ、このどこでもアイリ=A本体300円の割に、200円電池で5時間しかもたないのが難点ですけど……。

S:うむ。確かに。

N:しかし、最初から完璧なものなどありませんからね。どこでもアイリ≠ノは、今後の改良を期待することにしましょう。

S:うむ。それがよい。

N:……ああ、本日も、お別れの時間がきてしまったようです。今日の『地底の底から今日は』は、特別ゲストにシゲル氏をお招きしてお送りしました。……シゲル氏、今日はどうもありがとうございました。

S:うむ。

N:それでは皆さん、ジャスト微妙なところで、お別れいたしましょう。また明日、地底より愛をこめて。



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