ストライキの話


 ある時、神様のところに、1人の人間が来ました。
「神様、聞いて下さい。私は中学校の先生なのですが、生徒がこれっぽっちも話を聞いてくれないのです」
「それは困りましたね」
 神様がおっしゃいました。
「それでは、こうしてみたらどうでしょう。いっそのこと、授業をやらないのです」
「それはどういうことでしょう?」
 人間が言いました。
「簡単なことです。人は、追われれば逃げ、逃げられれば追うもの。授業がなくなれば生徒達にもその大切さがわかることでしょう」
 神様がおっしゃり、人間は頷きました。
「なるほど。1種のストライキですね」
 そして人間は帰っていきました。


 またある時、神様のところに、1人の精霊が来ました。
「神様、聞いて下さい。私は電気の精霊なのですが、人間達が電気を無駄使いしてばかりいるのです」
「それは困りましたね」
 神様がおっしゃいました。
「それでは、こうしてみたらどうでしょう。今後一切、人間達が何を言ってきても、電気の供給を行わないのです」
「それはどういうことでしょう?」
 精霊が言いました。
「簡単なことです。電気がなくなれば人間は困ります。きっと人間たちも電気の大切さに気付きこれからは電気を大切にするでしょう」
 神様がおっしゃり、精霊は頷きました。
「なるほど。1種のストライキですね」
 そして精霊は帰っていきました。


 またまたある時、神様のところに、コンクリートが来ました。
「神様、聞いて下さい。私はコンクリートなのですが、いつも皆に乱暴に踏まれてばかりなので、疲れてしまったのです」
「それは困りましたね」
 神様がおっしゃいました。
「それでは、こうしてみたらどうでしょう。あなたは固いですよね。その固さをやめるのです」
「それはどういうことでしょう?」
 コンクリートが言いました。
「簡単なことです。あなたが固いから、皆はあなたの上を歩くのです。固くなるのをやめてしまえば、人間たちがあなたを道路として使うこともなくなり、踏まれることもありえません」
 神様がおっしゃり、コンクリートは頷きました。
「なるほど。一種のストライキですね」
 そしてコンクリートは帰っていきました。


 またまたまたある時、神様のところに、太陽が来ました。
「神様、聞いて下さい。私は見ての通り太陽なのですが、四六時中地球を照らすだけの単調な作業のおかげで、私の1日が終わってしまっているのです」
「それは困りましたね」
 神様がおっしゃいました。
「それでは、こうしてみたらどうでしょう。1日中光らなければよいのです」
「それはどういうことでしょう?」
 太陽が言いました。
「簡単なことです。光らなければ、その分のエネルギーを他のことに回し、あなたのやりたいことがやれ、毎日違った日々を送ることが可能になるのです」
 神様がおっしゃり、太陽は頷きました。
「なるほど。1種のストライキですね」
 そして太陽は帰っていきました。


 またまたまたまたある時、神様のところに、月が来ました。
「神様、聞いて下さい。私は古来より地球の周りを回って、夜毎人々を照らしている月なのですよ。昔から私は地球と、そして人間とともに存在しました。それなのに、最近の人間ときたら、本来なら月を鑑賞するはずの月見で、飲んだり騒いだりするばかり。ちっとも月を見てなどいないのです」
「それは困りましたね」
 神様がおっしゃいました。
「それでは、こうしてみたらどうでしょう。地球の周りを回るのをやめるのです」
「それはどういうことでしょう?」
 月が言いました。
「簡単なことです。地球の周りを回るのをやめれば、騒がしい人間達と縁が切れる上、あなたが人々の前から姿を消すことになるので、人々もあなたのことが恋しくなることでしょう。」
 神様がおっしゃり、月は頷きました。
「なるほど。1種のストライキですね」
 そして月は帰っていきました。


 またまたまたまたまたある時、神様のところに、地球が来ました。
「神様、聞いて下さい。私は遥か昔から地球をやってきましたが、ずっと引力をはたらかせ、動物を乗せるのには、もううんざりなのです」
「それは困りましたね」
 神様がおっしゃいました。
「それでは、こうしてみたらどうでしょう。引力をはたらかせないのです」
「それはどういうことでしょう?」
 地球が言いました。
「簡単なことです。引力をはたらかせなければ、あなたの上に乗っていた動物達は宇宙空間へ全て落ち、あなたは身軽になれるのです」
 神様がおっしゃり、地球は頷きました。
「なるほど。1種のストライキですね」
 そして地球は帰っていきました。


 さぁ、大変です。
 中学校では授業が行われず、スイッチを押しても電気は通らず、コンクリートの道路はぐちゃぐちゃになり、太陽は光らず、月もどこかへ消えてしまい、ついには引力がなくなり、生物は皆宇宙へ放り出されたのです。
 見かねた神様は、ついにおっしゃいました。
「公共の福祉のため、ストライキ禁止!!」
 この瞬間、全ては元に戻りました。


 
 おわり。
   


※実際のストライキとは異なる点が多々あることをお詫びしておきます。
申し訳ありませんでした。




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photo by 空に咲く花