雨 彼らが帰らなくなって、一週間が経った。 全員、働き盛りの若い男たちだ。ひと月ほど前、彼らのうちいくつかが、良い採掘場を見つけたと言ってから、大勢がそこへ出ずっぱりになっていた。そして時々帰ってくるたびに、すばらしい土産の品を携えていた。 しかしある日突然、それは起こった。 必死の思いで戻って来た何名かの話によると、突如採掘場に謎の大雨が降り注ぎ、それに打たれた者たちは、みなことごとく力を失い倒れていったという。 一体どうしてこんなことになったのか。若者たちが通い詰めていたこの一カ月、採掘場の天候は常に良好で、あたりに猛獣の気配もなかったという。地盤にも問題はみられていなかった。それがいきなりのこの悲劇である。 あれから一週間、最初に逃げのびた者たち以外は、誰も帰ってこなかった。もしかしたら、動けなくなっているだけかもしれないので、救助にいこうという声もあった。実際に行動にうつした者もいた。しかしそれらもまた、幾日経っても戻ることはなかった。あの場所で何があったのか、依然不明である。 我らが長は、あの採掘場へ行くことを禁じ、これまで通り細々と暮らしていくことを決めた。 だが、中には諦めきれない者たちもいた。帰る気配のない若者たちの家族だ。彼らはせめて、孫や息子や兄弟、親の帰らない原因を知りたいと切に願っていた。 そのためならば、我が身を賭けても惜しくないと。 もちろん、長はそれを承諾しなかった。一度でもそのわがままを許してしまえば、新たな悲劇を生むことになりかねないからだ。もう、誰かが誰かを失う姿を見るのはごめんだった。 そこで私は提案した。私に行かせてくれないかと。 私には身寄りがなく、帰ってこなかったところで嘆く者もない。また、昔から足腰が弱く、採掘の仕事をさせてもらったことがほとんどなかった。たとえ戻れなかったとしても、我々に多くの富をもたらした採掘場を見ることができれば嬉しい。 長は、私の訴えを無言で聞いていた。やがて口から出たのは、ひとつの質問だった。 今、いくつになるかと。 私は正直に答えた。 そして長は、私の旅立ちを承認した。 私の年齢は、仲間内での平均寿命をはるかに超えていた。 その日は良い天気だった。 雲ひとつない青空。適度に吹く風。私はそれらをしっかりと目に焼きつけ、肌で感じると、多くの期待の目の中、地下道へと足を踏み入れた。それが、例の採掘場へと続く唯一の道だった。 暗い地下道には、多くの足跡がつき、そこが活気に満ちていた時間を思い起こさせた。今、そこに私の足跡が加わっていく。きっとここに、逆向きの私の足跡がつくことはないだろう。多くの若者が行きかった場所を、私は誰も伴うことなく歩いた。 数時間続くその道のりを経ると、上から光の注ぐ場所に着いた。例の採掘場だ。ごつごつとした上へのトンネルを、たくさんの若者が、手をかけ足をかけ上り、そして戦利品を抱えて下ったのだ。すでにこれまでの道のりで疲労していた私は、よろよろとそれを登っていった。おそらく、これまでここを通った誰よりも時間をかけて。 登りきった私を出迎えたのは、さらに高い崖だった。若者たちの話によると、その崖の中腹ほどに、採掘場はあるらしい。 こんな崖を登れるだろうか。私が思案していた時だった。 突然、上空がかげったかと思うと、強い雨が降り注いだ。いや、これは雨なんてものじゃない。悪意のあるいくつもの水流だ。それが私目がけて向かってくるのだ。 地下道を歩き、トンネルを登りきった私に、それらをよける体力はなかった。たとえあったとしても、その強い悪意から逃げ切れる気力が到底なかった 水流の一つが私をとらえ、地面に叩きつけられるのを感じた。 「お母さん、また蟻が食器棚にたかってるよ」 「もう、誰よ。何週間もここに蓋の開いたジャムを放置したのは。殺虫剤がいくらあっても足りないわ」 ←名物 駐輪場→
photo by ひまわりの小部屋
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