ある村にて とある旅人が、とある村を訪れた。 ――昨日は、お車で観光案内をしていただき、ありがとうございました。 「なに、いいってことよ。旅人さんには、うちの村のいいところをいっぱい知ってもらって、他の旅先で宣伝してもらわないといけないからな。どうだ、今日もこれから?」 ――ぜひお願いします。つかぬことをうかがいますが、昨日とお車が違うようですが、何台もお持ちで? 「いやいや、これ一台だけだよ。昨日のはもうないぜ」 ――買い替えですか。結構なことで。前のお車は、何年くらい乗られたのですか? 「一日だな」 ――え? 「丸一日乗ってたな。本当は午後には買い替えたかったんだが、気に入ったデザインのがなくてな」 ――たった一日で買い替えられたのですか? お金持ちなのですね。 「いやいや、ここでは当たり前のことだぜ」 ――……みなさん、車がお好きなんですね。 「車に限ったことじゃないぜ。洋服だって靴だって鞄だってアクセサリーだって、一日使えばみんなポイさ。中には、二晩と同じ寝床を使わない奴だっているさ」 ――それはなんとまあ……お金のかかりそうな生活ですね。 「だが、出る分に見合った収入があるからな。みんななんでもかんでもすぐに新しい物を買うから、それに追いつく生産量をこなすために仕事はたくさんあるし、給料も高い。使い捨てたものたちをリサイクル処理する仕事だってあるしな」 ――でも大変でしょう。なぜわざわざそんな面倒なことを? 「なぜってそりゃあ、新しいものを使った方が気持ちがいいからだろ」 ――そういうものなのですか。 「それに、何が自分に合うのか、使ってみないとわからないしな。ちょっと合う気がしたものがあっても、それよりもっと自分に合うものがどこかに存在するかもしれないし。ずっと同じのばかり持っていたら、いい笑いものさ」 ――どんなものでも、すぐに取り換えてしまうのですか? 「ああ、そうだ、どんなものでもだ。……いや、正確には、ひとつを除いて、だけどな」 ――たったひとつだけですか。それはよほど重要で大切なものなのでしょうね。 「そうさ。それだけは、おいそれと変えられねえな。それというか、それらはな」 ――同じものだけど、たくさんあるということですか。で、それは一体なんなのですか? 旅の思い出にぜひともお聞かせ下さい。 「それは教えられねえな。まだしばらくこの村にいるんだろ? 自分でよく見て当ててみな」 ――その土地独自の風土や特色を自分で発見する、それこそ旅の醍醐味です。いいでしょう、探しあててみますよ。 「頑張ってみてくれや。わかったら、教えにきてくれな。その時俺がまだ同じ家に住んでいるとは限らないけどな」 「で、結局その旅人は答えがわかったのか?」 「村を出る時に挨拶にきてくれたんだが、やっぱりわからなかったってよ」 「それで、答えを教えてあげたの?」 「次に来る時があったら教えてやるって言っておいたさ」 「お前は本当、昔から性格悪いよなあ。ガキの頃から変わりゃしねえ」 「それがわかるのも、お前らが答えだからだよな。な? いつまでもつるんでくれてる友人たちよ」 ←名猫スニッフィー ぐ→
photo by 空に咲く花
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