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 私は職業としてたこ焼き店を営んでいる。
 先日、とある客からクレームがあった。私が提供したたこ焼きに異物が混入していたというのだ。そんなはずはないと思いつつも、客が持ち込んだ食べかけの我が店のたこ焼きには、ビニール袋の切れ端が顔を出していた。それは店で使用している紅ショウガの袋の切れ端のようにも見え、そうでないようにも見えた。ともあれ、食品を売る客商売。真摯にクレームを受け止め、申し訳ないといくらか包み、なんとか納得して帰ってもらった。
 数日後、また同じ客が来た。前回のことにこりずにまたうちのたこ焼きを買いに来てくれたことに私は感謝した。しかしそれも束の間。こともあろうにその客、店を出る間際に、今日はビニールなんて入っていないといいんですけどね、などと言い残していきやがった。まったくなんて客だ。こっちは誠心誠意、金まで出して謝ったっていうのに。ああ、今の言葉を聞いた他の客たちの視線が痛い。
 その後も、その客は時折やってきては、何かしら余計なことを言い残していく。もうビニールの隠し味はやめたのね、だの、この前は運良く変なものがはいっていなくて良かったわ、だの。昔からのなじみの客はよくわかってくれてはいるが、それでも全体的な客数が減ってきているのは確かだ。
 何度目のことだろう。いい加減いらいらしてきた私は、そんなに異物がほしいのならお望み通り入れてやる、と想い、その客の注文したたこ焼き一つ一つに円形のものを埋め込んだ。翌日、にこにこしながらその客がまたやって来た。昨日のたこ焼きは格別においしかったわ、などと言って。私はまた、なにくわぬ顔をしてその客のたこ焼きに昨日と同じものを入れた。客はその場で、買ったたこ焼きを一つほぐして中をのぞくと、にやりとして帰っていった。それはそうだろう。昨日から私がたこ焼きに入れていたのは五百円玉。うちのたこ焼きは一船八個で五百円。たこ焼き一つ一つに五百円玉が入っているとすれば、とんでもなくお得な計算になる。客がにこにこして買えるのも当然のことだろう。こうして例の客は、一週間毎日私の店に通い続けた。
 そして八日目。その客はすごい剣幕で私の店を訪れた。手には、昨日買っていったたこ焼きが一船。どのたこ焼きも無残にもぐちゃぐちゃにされ中身があらわになっている。客は、憎々しげに私を見ると怒鳴り散らした。
「どういうことなの!? このたこ焼き、いつものが入ってないじゃない!? いくら探しても、タコにネギに紅ショウガたけ! どうなってるのよ!?」
 わめき続けるその客を、他の客たちは変なものを見る目で見ていた。それはそうだろう。今並べ立てた具こそが、異物混入も材料不足もない、いたって普通のうちの店のたこ焼きなのだから。



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photo by 空に咲く花