ジンクス


 そいつと俺はいつも一緒だった。
 何も好き好んで一緒にいたわけじゃない。どういうわけか、一緒に行動するはめになってしまっていたのだ。
 小学校の六年間はずっと同じクラス、中学でやっと隣のクラスになったと思いきや、入った部活が何故か同じ、委員会もまた然り。
 かといって、俺たちは仲良しだったわけじゃない。むしろ俺はそいつのことを嫌っていた。馬が合わないというか、どうも好きになれなかった。そして何より、そいつと一緒の九年間、ろくなことがなかった。
 小学校の時の担任は問題教師ばかりだったし、特に俺の不注意というわけでもないのに、あやうく交通事故になるところだったことがしばしば、遠足の日の雨が降らないこともなかったし、林間学校も台風で散々、中学に入ってからは部室を荒らされるわ物を盗まれるわ、おまけに九年間、そいつと俺とは同じチームで体育祭で常に最下位だった。細かいことをあげればきりがないが、とにかくあまりいい思い出といえるものがない。
 これは絶対そいつのせいだと俺は思っている。ここまで運が悪いのは、何か憑いているに違いない。それとも、特定の人間といると運が悪くなるというジンクスでもあるのだろうか。
 しかし、そんな生活とももうおさらばだ。今日から俺は高校生、そしてそいつと俺とは別々の学校だ。そいつと俺はまたも偶然同じ高校を受けたのだが、そいつは落ちて、俺だけ受かった。大きい声ではいえないが、実は、俺はそいつが試験に落ちるようにちょっとした細工をしておいたのだ。罪悪感はあるが、これで、あの奇妙に運の悪い生活から抜け出せるに違いない。
 俺は晴れ晴れとした気持ちで自転車に飛び乗り、新たな生活へ向けて力強く漕ぎ出した。すると、青信号の横断歩道を渡っている俺の真横から、大型トラックがつっこんできた。こんな朝っぱらから酔払い運転でもしているのか、ハンドルが定まっていない。そしてそのまま俺の体は自転車ごとトラックにはじき飛ばされ、道路に叩きつけられた。
 吹っ飛ばされながら思った。今まで俺は事故寸前という目には何度もあってきたが、実際に事故にあったのはこれが初めてだ。どうやらどうしようもなく運の悪いのは俺自身で、そいつといることでいままで九死に一生をえていたようだ。
 道路に思い切り打ちつけられた俺の体は無気味な音をたてて弾み、本来とは違う形に体が変形してしまったが、俺にはどうしようもない。幸運を呼んでくれるジンクスは、もういないのだから。



←うえへ      雑学王・アーチャー→


photo by 10minutes+