金魚たち 空飛ぶ金魚がいた。 なんてことない普通の金魚だったのに、ある日突然空を飛んだ。人々は、こぞってその金魚を手に入れようとした。しかし誰かが捕まえようとすると、金魚は空を飛んでひらりと逃げていく。 一人が聞いた。 金魚さん、何故逃げるのですか。 空飛ぶ金魚は答えた。 だって捕まえられたら、あなたたちは私を閉じ込めて見せびらかして、不自由な暮らしを強いるのでしょう。 ならばと、人々は口々に言った。 私のところに来てくれれば、三食昼寝つき、いつでも好きな時に空を飛んで出かけられて、会いたくない人には会わなくて結構です。ただあなたが、私の家で寝食を共にする、私の金魚になってくれればいいのです。 誰もが同じことを言ったので、空飛ぶ金魚はその中で、一番お金持ちの人を選んで、その人の金魚になった。空飛ぶ金魚はいつでもおいしいご飯を食べて、広い水槽を泳ぎ、好きな時に好きなだけそこら中の空を飛びまわった。 それを見た他の金魚たちはうらやましがった。 一匹が聞いた。 おいあんた、なんでそんなに良い暮らしができるんだ。 空飛ぶ金魚は答えた。 ちょっと頑張って、何か他の奴らと違うことをすればいい。歌を歌うとか、お手玉をするとか。それをやるのが一匹だけなら、人間は珍しがって、自分のものにしたくなる。特別になるのなんて簡単さ。 ならばと、金魚たちは動いた。 ある者は絵を描き、ある者は逆立ちをし、またある者は楽器を奏でた。ダンスを踊るという考えが被った金魚たちは、話し合いの末、コンビを組んで踊ることにした。書道家になる案をじゃんけんでとられた金魚は、苦悩の末、書道評論家に落ち着いた。 そんな金魚たちを見て、人々は、我先にと、自分の金魚になるように交渉した。条件はどこも同じようなものだったから、金魚たちは、一番に声をかけてきた人の家に行くことにした。 金魚たちがそれぞれの家に落ち着いていく中、一匹だけ、何もしない普通の金魚がいた。 金魚たちは聞いた。 おいお前、何もしないでいつまでも一匹でいて、どうするつもりなんだよ。 普通の金魚は答えた。 どうもしないさ。この池でずっと暮らしていく。それだけさ。 ならばと、金魚たちはそれぞれの家に帰っていった。 月日は流れ、特技を身につけた金魚たちは元気をなくしていった。無理矢理自分の体に合わないことをしていたから、その負担がどんどん押し寄せてきたのだ。 人々が惜しむ中、金魚たちはだんだんいなくなっていった。そして最後に、特別なことは何もしない、普通の金魚だけが残った。 最後の一匹という特色を得た金魚を手に入れようと、人々は池に押し寄せた。 一人が言った。 金魚さん、あなたは誰の金魚になってくれるのですか。 最後の金魚は答えた。 逆に聞きましょう。誰が一体、私に特別なことをしてくれるのですか。同じ条件ばかり並べられて、私はどこを特別な家にすればよいのでしょうか。 人々は顔を見合わせて話し合ったが、誰も他人と違った条件を考えつくことはできなかった。やがて人々は、諦めてそれぞれの家に帰っていった。 普通の金魚は、普通の池で、普通に暮らし続けていった。 ←ぐ キスキッス→
photo by Simple Life
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