贈り物


 ある時地球に一台の宇宙船が届いた。
 中には誰も乗っていない。そこにはメッセージの流れる小箱だけがあった。
『初めまして、みなさん。私たちは銀河系のずうっと彼方に住んでいます。私たちはあなたたちに会いたいです。この宇宙船はプレゼントです。自動操縦で私たちの星に来ることができます。また、あなたたちがこれより優れた宇宙船をお持ちであれば、入口に取り付けられた宝石をお使い下さい。きっとあなたたちを私たちの元へと導いてくれるでしょう。それではみなさん、あなたたちに会える日を、心待ちにしています』
 これを聞いて人類は喜んだ。
 この広い宇宙のどこかに、地球人と話しの通じる生命体がいる。この広い宇宙のどこかで、それらは彼らに会えることを望んでいる。宇宙船のプレゼントまでよこして。
 それでも一応、一部の知識人の提案で、安全の点検だけは行われた。宇宙船に変なところはないか。これは何かの罠ではないか。結果、宇宙船に不審な点は見当たらなかった。といっても、現在の人類の科学技術の上をその宇宙船はいっているのだ。調べたところで、何がおかしいかわかるはずもない。
 宇宙船の贈り主の唯一の手がかり、小箱のメッセージも調査された。高名な心理学者や機械技師や音声学者、その他諸々の専門家を総動員した結果、流れてくるメッセージには敵意や害意はなく、言葉通り、ひたすらに会えることを待ち望んでいるという期待と希望があるばかりということがわかった。
 そうとなればもう行くしかない。
 より優秀な宇宙船など持たない人類は、地球に届いた宇宙船に乗りこむと、意気揚々と銀河系の彼方へと出発した。
 もちろん、乗組員は慎重に慎重を重ねた上で選ばれた者だけが乗せられた。なにせ人類初の地球外生命体との対面に向けての出発なのだ。粗相があってはいけない。地球人とはこの程度のものかとがっかりさせてはいけない。責任は重大だった。
 宇宙船の乗り心地は最高だった。不快な振動もないし、どういう仕組みなのか、飲み物も食べ物も尽きることなく配給された。しかもその味の美味なこと。また、退屈に悩まされるということもなかった。宇宙船の製造者たちの文化なのだろうか。船内の一室にはいくつもの映像記録が収録されており、それらが絶えることなく上映されているのだ。乗組員たちは、それらを見ては目を輝かせた。
 やがて時は流れ、宇宙船は目的地にたどり着いたらしい。巨大な黄色い惑星に近づくと、ゆっくりと減速していき、着陸の態勢をとりはじめた。
 いよいよだ。ついにこの日が来た。乗組員たちは息をのんだ。
 その時だった。
 宇宙船がばらばらに砕け散った。あっという間の出来事。残った欠片たちは黄色い星へと降り注ぎ、大気圏で燃え尽きていった。


「あー、やっぱり駄目だったか」
「今度こそ来てもらえると思ったのに……」
「これで何台目だ?」
「多分、百はくだらないんじゃないかな」
「ちきしょう。せっかく宇宙船ができたと思ったのに、何故か復路で必ず原因不明の爆発をしやがる。方々の星に送れば、もっと科学の進んだ生物が、宇宙船を改良して来てくれるか、そいつらの安全な宇宙船で来てくれるんじゃないかと期待していたんだがなあ。やっぱりそううまくはいかないらしい」
「やれやれ。結局は、自分たちでどうにかするしかないということか。世の中、そううまい話はないものだなあ」



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photo by Simple Life