レミちゃん レミちゃんは空想好きの女の子だった。いつも何かを空想していて、自分の想像した生き物たちと話すことが大好きだった。想像したものたちが、大切なお友達だったのだ。だから、本物の悪魔が現れた時も、それは自分が想像した、実際には存在しないものだと思った。 「やあ、お嬢さん、こんにちは。俺は悪魔だ」 「こんにちは、悪魔さん。素敵な鍵尻尾をしているのね」 「驚いた。悪魔がでたってのに、混乱することなく、こんなににこやかに挨拶する奴がいるとは」 「悪魔さんでも驚くことってあるのね。ふふ。今日の空想のお客さんはとっても楽しいわ」 「おいおい。俺は空想の産物なんかじゃない。確かに存在していて、お前のどんな願いでも叶えてやることができるんだぜ」 「まあ素敵。悪魔といったら、やっぱり三つの願いよね。でも、それじゃありきたりだわ。もっとこう、斬新な想像はできないものかしら」 「願いに斬新さを求めるとは。へんてこな奴だぜ。だがまあいい。ありきたりだろうがなんだろうが、俺がお前の願いを叶えてやる。さあ、なんでも好きに言ってみろ」 「でも、悪魔さんに願いを叶えてもらったら、代わりに魂をとられちゃうんでしょう?」 「そんなことはしないさ」 「あら、嘘よ。だって、散々色んなお話でそうなってるのよ」 「お話はお話だ。俺は違うぜ。なんなら、神に誓ってもいい」 「これは新しい反応だわ。悪魔が神様に誓いをたてるだなんて」 「これなら信じるだろ?」 「最近、想像力がマンネリ化してた気がしたんだけど、まだまだ捨てたもんじゃないわね」 「な、とにかく、魂の心配なんてしないで。それに、俺がお前の想像上の存在なら、そいつに魂をとられるわけがないだろう?」 「それもそうね」 「じゃあ、言ってごらんよ。何か、こうなったらいいなって願いを」 「でも、どんなお願いも、空想の中でなんでも叶っちゃうからなあ」 「空想じゃなくて、現実になったらいいなあ、ってものはないのか?」 「そうねえ。じゃあ、一つだけ」 「おっと、その前に。頭の中に、今一番大切な物を想い浮かべてみろ」 「一番って難しいわね。でも、決めたわ」 悪魔は内心にやりとした。この悪魔、願いの代償に魂をいただくのではなく、その人間の一番大切な物を奪っていくのが楽しみなのだ。 悪魔は、レミちゃんが思い浮かべた、一番大切なものに呪いをかけた。悪魔にはそれが何かはわからなかったが、悪魔の力をもってすれば、正体不明の対象に呪いをかけることもたやすいのだ。レミちゃんが口にした願いを悪魔が叶えたとき、レミちゃんの一番大切な物が、あっという間に消えてなくなってしまうという呪いだ。 「よろしい。では、願いを言ってごらん。そしてその後、お前の一番大切な物を、一緒に見に行こう」 跡形もなく、なくなっているはずだがな。 そうと知ったときのレミちゃんの絶望を想像して、悪魔はにやにや笑いを浮かべた。 「じゃあ、お願いするわ。あたし、あと五p背が伸びたらいいなって思ってたの。そうしたら、お隣の素敵なお庭を、あの、小人が何人も住んでいそうなお庭を、背伸びをしなくても眺められるようになるもの」 「そんなの、お安い御用だ」 悪魔が怪しく目を光らせると、レミちゃんの背がすっと伸びた。 「まあ、すごい。景色が違うわ。空想じゃなくて、本当に願いがかなったのね。悪魔さん、ありがとう」 レミちゃんがお礼を言ったとき、悪魔はどこにもいなかった。 「あら? どこに行ったのかしら? せっかく、今まで想像した中で、思いもよらないことを言ってくれた悪魔さんが一番大切よって教えてあげようと思ってたのに」 首をかしげて、レミちゃんは考えた。 「でも、実際に背が伸びたんだから、あれは本当の悪魔だったのかもしれないわね。言った通り、魂もとらなかったし。だとしたら、あたしが想像したものじゃないから、いなくなってもどうでもいいわ」 レミちゃんは、五p高くなった目線で頬杖をつくと、今度は天使が来たらどんなことになるのかしら、と空想し始めた。 ←運のいい奴 温泉老人→
photo by Simple Life
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