Miss.PEACH誘拐事件 〜解決篇〜


「ミス・ピーチ、こんなところにいたのね!」
 下駄箱の隙間に挟まれていたミス・ピーチを見つけたとき、少女Aは歓喜の声を上げた。
「あぁ、良かった……! 私、ミス・ピーチがいなかったら、授業を受けられない!」
 少女Aは、隙間から丁寧にミス・ピーチを取り出して、抱きしめた。すると同時に、ミス・ピーチとはまた別の板状の物が落っこちた。下敷きだ。ミス・ピーチと一緒に下駄箱に挟まれていたようだ。
「良かったねぇ……!」
「おめでとう!」
「バンザーイ!」
「これでちゃんとノートを取れるね!」
「ありがとう……ありがとう、みんな!」
 次々と上がる祝いの声に、少女Aは、涙でぐちゃぐちゃになった顔でこたえた。
 ミス・ピーチ発見の喜びで盛り上がっているみんなは、落ちた下敷きには気付いていない。1人を除いて。
(あの下敷きも、誰かに盗まれた物なのかな。)
 冷静にその下敷きを見ているのは、少年Zだ。
(でも、一体、誰が、何の目的でこんなことをやったのだろう。……ん?)
 ここで初めて、少年Zは、少女Aの腕の中にあるミス・ピーチの変化に気付いた。
(Miss.PEACH≠チて言っていたよな……。じゃあ、何でMrs.PEACH≠チてかいてあるんだ……?)
 この異変に、少年Z以外は、誰1人として気付いていない。少女Aでさえも、だ。そして少年Zはもう一つの奇妙な事実に気付いていて、そのため少年Zの視線は、落ちた下敷きから離れない。
(この下敷き……「ミスター・アップル」ってかいてある……!?)
 無残にも床に落ちたままにされている白い下敷きには、なるほど確かに、青い文字でMr.APPLE≠ニかいてある。
(これって、言った方がいいのかな……?)
 喜びに満ち溢れているクラスメイト達を横目で見て、少年Zは、いたたまれない気持ちでいた。
 ちょうどその時、終業を告げるチャイムが鳴った。
「給食だー!」
「みんな、乾杯しに行こうぜー!」
『お―――!!!』
  だだだだだっっっ
 そして彼らは下駄箱を後にした。


 かくして、ミス・ピーチ誘拐事件は幕を閉じた。
                    
         

おわり(のはず)




←Miss.PEACH誘拐事件 〜発見篇〜      さくら→


photo by 少年残像