Miss.PEACH誘拐事件 〜推理篇〜


「――まず、現状を確認してみよう。」
 教室を出て食堂へ雪崩込んだ後、少年Xが言った。
「現状って……ミス・ピーチがいなくなった。重要なのは、それだけよ。」
 こたえたのは、暗い顔の少女A。ミス・ピーチがいなくなったのが、よほどショックのようだ。
「そうじゃない。俺の言い方がまずかった。俺が言いたかったのは、ミス・ピーチがいなくなる前の状況のことだ。」
 全員の顔をぐるりと見回して、少年Xは再び言った。
「ミス・ピーチがいなくなる前。つまり、三時間目とその後の休み時間の状況ね。」
「そういうことだ。」
 保健委員である少女Cの言葉に、少年Xは満足げにうなずいた。
「二時間目までは、確かにミス・ピーチはいたんだろ?」
 少年Wが言った。みんなでミス・ピーチの行方について食堂で話し合ってから探しに行こう、という少年Xの提案に、少年Wは少々苛立っていた。
(こんなまどろっこしいことしてないで、さっさと探しに行けばいいのに……!)
 少年Wの内心には微塵も気付かず、少女Aは、暗い声で言った。
「ええ……二時間目の数学の時間までは、ミス・ピーチはいたわ。」
「三時間目は体育だったから女子は体育館、男子は校庭にいて、教室には誰もいなかったわ。けど授業が終わる十分前には、私、教室にいたの。だからミス・ピーチがいなくなったのは、授業開始から四十分間のいつかよ。」
 少女Dが冷静に言った。
「何でお前、授業が終わる前に教室にいたんだよ。ひょっとして、お前が犯人じゃねぇの?」
 再び、少年Wの苛立った声。
「そんなわけないでしょ。気分が悪くなったから、ちょっと早めに教室に帰してもらっただけよ。」
 冷たい口調で言う少女D。彼女が普段からよく貧血をおこすことは、クラス中が知っている。
「三時間目といったら、どのクラスも授業をしている。ということは、これはやはり、外部の犯行だな。」
 これまで静かにみんなの話を聞いていた少年Xが、結論を言った。
 その時誰もが思った。
(――当たり前だろ。)
 少し考えれば、誰だって分かる。むしろ問題は……。
「そんなことより、動機だろ、動機。何でミス・ピーチがいなくなんなきゃいけねぇんだよ。」
 少年Vがだるそうに言った。それと共に上がる、その通りだ!という声。
「それは……。」
 言葉につまる少年X。
 少女Aが、ついに泣き出した。
「ミス・ピーチがいなくなったら、私、わたし……!」
 しばらく食堂には、少女Aの泣き声だけがこだました。
「こうしていても、何も変わらないよ。とりあえず、全員でミス・ピーチを探そう! 学校中くまなく!」
 少女Bの言葉に、みんなはうなずき合い、二、三人のグループをつくって食堂から出て行った。
 残されたのは、いまだに泣いている少女Aと、気まずい面持ちでたたずんでいる少年Xのみだった。


 かくして、食堂を本部とするミス・ピーチの捜索が始まった。  



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photo by 少年残像