Miss.PEACH誘拐事件 〜勃発篇〜


 ――事件は四時間目に起こった。
「ミス・ピーチがいない!」
 始業のチャイムと同時に上がった少女Aの叫びに、誰もが思った。
(――ミス・ピーチって誰!?)
 当然だ。このクラスにミス・ピーチなどという名前の人はいない。そもそも、そんな変な名前の奴いないだろう。
「どうしよう……! ミス・ピーチがいないと、私、ノートがとれない……!」
 青ざめた顔で言う少女Aに、少年Zが尋ねた。
「……ミス・ピーチって誰?」
 クラスを代表して言った少年Zの言葉に、少女Aは、顔を一層青くして叫んだ。
「私の下敷きよ! 水色の透明なやつで、白でMiss.PEACH≠チてかかれてんのよ!」
「何だって!?」
 この叫びに、今度はクラス委員の少年Yが立ち上がった。
「それは大変だ! 窃盗じゃあないか! みんなでミス・ピーチを探そう!」
「そうよ! みんなミス・ピーチを探しましょう!」
「クラスメイトが困っているのに、放ってなんておけないね!」
「人の物を盗む奴がいるなんて、最低だ! みんなで見つけようぜ!」
「大丈夫よ、きっとミス・ピーチは無事よ!」
「…………みんな……!」
 クラス委員に続いて上がった級友達の声に、少女Aは涙ぐんだ。
「そうと決まったら、こうしちゃいられない! 授業なんかやめて、みんなでミス・ピーチを探しに行こう!」
『お―――!!!』
  がらっっ だだだだだっ
 そして彼らは教室を後にした。実はみんな、単に授業をサボりたいだけだったりする。
 残された先生は、ただひたすら生徒の帰りを待つしかないのだった。どこにでもいる、生徒よりも立場の弱い先生というである。


 かくして、ミス・ピーチの救助が始まった。



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photo by 少年残像